グループホーム殺人事件・第2回公判

2月に石川県で起きたグループホームの殺人事件。同じ介護を食い扶持にしている自分としては、どうして起こってしまったのかを知りたくて傍聴することにしました。
金沢地裁に9時に到着したとき、すでに傍聴を求める人が10人ほど並んでいました。今回は傍聴人数が多いと予想されたことから、あらかじめ整理券を配り、人数が多い場合は抽選する、というもの。最終的に50人ぐらいが並びました。
何とか抽選はクリアし、第3号法廷に。

午前10時開廷。被告人は警吏に連れられ、ジャージ姿で登場。今日は被告人尋問の日である。

・被告人は平成15年9月よりグループホームに勤務。祖母(すでに亡くなっている)が認知症で、母親の介護の負担を軽減するための知識を得たいという目的があったそうだ。昨年10月からヘルパー2級の資格取得を目指していたが、実技講習の日数が足りておらず、取れていないそうだ。
・月に13日夜勤をしていた。一回の夜勤で1万円の給与。
・仕事の時間割は、
17:30〜 引継ぎ
18:00〜 食事介助、後片付け
19:00〜 パジャマ更衣・排泄介助
20:00〜 就寝
翌朝6:00〜 朝食準備
7:00〜 朝食介助、後片付け
8:15〜 引継ぎ
20:00〜6:00の間は仮眠時間はなく(転倒事故があるといけないからという理由で無くなったらしい)、基本的に1時間に1回巡視(入所者によっては30分に1回の人もいた)を行っていた。
・職場・仕事に対しては不満やストレスがあった。
①職員を増やしてほしいと、職員に対するアンケート調査があったときに希望したが、その後の回答で「現時点では無理」と。昼の仕事に変えてほしいと要望したが、理事長からは夜勤を1回減らして日勤を増やせば可能と言われたが、いつからするかという具体的な話が無かった。
②転職しようと1月末か2月の初めに理事長と話し合いを持った。近くの施設で正職員(彼がグループホームで働いていたときの身分はパート)を募集しており、歳も30歳近くなっているので正職員になりたかったためだ。しかし、理事長から「新しいグループホームを作る予定なので、そちらの正職員になってもらいたい。グループホームを作れない場合でも、それ相応の処遇をするから」と、留意された。
③夜勤中に入所者が転倒をして骨折をした。自分が事故報告書を書かなければならなかったが、施設のほかの職員が勝手に書いて、まるで自分に全責任があるかのように決め付けられてしまった。激しい不満を持った。
④夜勤中寝ていたと注意されてしまった。実際には寝ていないのに、上司に同僚が申告した。
⑤仕事が遅いと遠まわしに言われたことがある
⑥女性入所者が失禁したり、便などをかけられたことがある。介護職員としては避けて通れないことだが、口に出していえないのでムッとはしたが感情を押し殺していた。
⑦入所者に嘘をつかないといけないことがあった。嘘を言うのに抵抗感があった。
・家族関係でもストレスがあった
①父親が酒びたりになって、自分がいつも怒られてばかりいた。
②交際していた女性を家に連れてきたが、「帰せ!」と言われ、腹が立った。「父親を殺してやりたい」と、一時の感情で口走ったことがある。

そして、事件当日の様子だが、
・被害者は要介護度4で、つかまり立ちは可能(ただし支えが必要)、独歩は無理で、手すりにつかまって歩くことは可能。ただし、その日の状態で出来る時と出来ない時があった。
・午前0時30分、巡視(11番目)したときに、被害者は自分からベッドに降りて出入り口近くにまで出てきていた。引き戸を開けて廊下に出ようとしていた。ベッドに連れて行って寝かせ、ファンヒーター(エアコンが各部屋にあるが、ファンヒーターを使用される方もいたようで、使用する部屋はエアコンは使用しないと言う決まりがあった)を点火し、台所に移動した。
・しかし、間もなく休憩しようとしたときに被害者の部屋から物音がした。行くと被害者がヒーターのそばで座っていた。ヒーターは耐震装置が作動したのか、消えていた。足で蹴飛ばしたものと思われた。再びベッドに寝かせて、ヒーターの向きを変えて点火。台所へと戻った。このとき、部屋の引き戸は少し開けた。被害者が起きだして来たときにわかるためである。
・しばらくして、また部屋から物音がして訪室したら、被害者はベッドから降りてヒーターを足で押していた。何度も同じことをするので被害者に対してムッとしつつも、再度ヒーターを点火して被害者をベッドに寝かせた。
・寝かせた直後、他入所者から呼ばれたような気がして、ほかの部屋を見に行ったのだが異状は無かった。念のために近くの数部屋を見回って、すぐに被害者の部屋に戻った。被害者の部屋に戻ったのは、物音がしたからではなく単に気になったからである。
・すると、被害者はベッドから降りていて、ヒーターを足で蹴って火を消していた。さすがに被害者に対して腹が立ち、「折檻して懲らしめてやろう」という気になり、ヒーターを被害者に向けて点火した。被害者は逃げてたんすの隙間に入り込み、体育座りになった。そこにヒーターを近づけ、ヒーターの温度を最高温度に上げた。(被害者の右斜め前にヒーターを向けたはずだが、被告ははっきりと覚えていないらしい)折檻しようとは思ったものの、「頃合を見て消そうと思っていた」ので、殺そうとか死んでしまってもよいとは思ってはいなかった。
・ヒーターの後ろに立って様子を見ていた(これも被告は記憶にあまり無いそうだが)。被害者が口から液体を出したり、荒い呼吸をしていたのはわかった。その後、大きな呼吸を1つした後に呼吸音が途絶えた。被害者にヒーターを当てていたときは、熱風でやけどしたりショック死するとは思いもしなかった。被害者が死んでもかまわないとは思っていない。そのときは逆上していて冷静さを欠いていたのは間違いは無い。被害者が呼吸音が止まったときは死んだと思った。
・その後なぜか台所に移動。頭は混乱しており(これまでの職場での人間関係や仕事のこととか家族のこととかいろいろ思ったそうだが・・・)、どれぐらいの時間がたったのかもわからなかったが、ようやく大変なことをしてしまったと思い、部屋に戻って被害者に心臓マッサージや人工呼吸を行ったが蘇生はしなかった。被害者がやけどをしていたのはこのとき初めて気づいた。携帯時計の時刻表示が2時24分を示していた。その後、遺書を書き自殺を図った。

・・・・とまあ、このような流れであります。
今回大きな争点となっているのが、「未必の故意」があったのかどうか。被告人は明確に否定しています。また、捜査段階の供述も、「検事が代弁してこれでいいかと聞かれ、そのときは自分でうまく表現できないから認めるしかなかった」と述べて供述内容を否定した。なぜ反論をしなかったのかという検察官からの問いに、「反論してもしょうがないと思ったから。自分は犯罪者だから、意見が通らないと思った」と被告は述べました。
そして、被害者と被害者の家族に対しては、「本当に申し訳ない気持ちです」と・・・

今回の公判を傍聴して思ったのが、被告の「あきらめ」とも取れる態度でした。自分は人殺しで、いかに意見を述べようとも事実は変わりようが無く、もう裁きを早く受けたい・・・そんな感じでした。
ただ、今回の事件は介護や介護の仕事に対してさまざまな課題を投げかけていると思います。たとえば夜勤でも、1人で12人の認知症のお年寄りを見るというのは、ものすごいプレッシャーとストレスがかかるものです。私は夜勤帯、最高で1人で40人見ています。緊張感で次の日は肩がパンパンに張ってしまうもんです。まあ、夜勤帯は「入所者が寝ている」と言う前提で1人の勤務にしているんですが、そんなの建前ですね。それに夜勤帯のの介護士の人数を増やそうとしたら人件費がやっぱりかかるために、増やせないのが現状なんです。これは全国どこ行ってもおんなじ課題を抱えていると思います。
人を死なすと言う犯罪を犯してしまった被告に対しては、当然自分の侵した罪に対する反省を促したいと同時に、「同情を禁じえない」と今日裁判を傍聴して感じました。
次回は6月27日午前10時から行われます。