いよいよ佳境。

ブラックジャックによろしく」精神科編も、いよいよクライマックスに向かっている。
今回の話は、伊勢谷先生と門脇記者の屋上での会話から、なぜか斉藤と居酒屋になだれ込んで飲みつつ伊勢谷先生が過去に病院であった患者への処遇を語り始めるという内容。
描かれていた患者への処遇・・・「患者への電気ショック」「ロープで柱にくくられたポチと言われた患者」これらは過去実際にあった出来事を基に描いているもの。
「患者への電気ショック」は、いわゆるECTやmECTと呼ばれるれっきとした医療行為(最も効果があるのがうつ病に対してらしい)なのだが、昭和30年代には反抗的な患者に電気ショックを行っておとなしくさせるのが当たり前だったようだ。
こんな記述を見つけた。

畳が敷かれた部屋に連れて行かれた。三、四人の男が寝ている。その中の一人は、口にタオルをくわえて、全身をガタガタと震わせている。その光景は私の眼に異様に映った。
 次の男の番になった。タオルを口にしっかりとくわえさせてから、係員が器具の二つの端子を二、三秒間男の左右のこめかみに当てた。すると、男の身体が、一瞬硬直し、のけぞって失神した。それから全身をガタガタと震わせた。ちぎれそうにタオルをくわえた口から、激しい息遣いが聞えた。私の心は氷ったようになった。
 これが電気ショック療法だった。しかも、麻酔をすることもなく生のままかけていたのだった。それはまさに処刑場の光景だった。係員は冷酷な刑吏のように見えた。
 そのうちに、私の番になった。何か叫びだしたい恐怖を感じたが、今更逃げ出すことも出来ず、どうにでもなれといった捨て鉢な気持になって、床に身を横たえた。
 タオルを口一杯にかんだ。瞬間的に電流を走るのを感じたが、その後の意識はない

これがどうやら元ネタみたいですね。
さすがに現代ではここまですることは無いだろうが、薬物療法などと併用して電気ショックは使用されているようですね。

「ロープで柱にくくられたポチと言われた患者」は、これも実際にあった話。

「ポチ」と呼ばれていた男性(59)に会った。様々な人権侵害が明るみに出た大阪府箕面市の精神病院「箕面ヶ丘病院」に入院していた患者だ。大勢が出入りするデイルームの一角に、ひもでつながれたまま寝起きし、用を足すのもポータブル便器。そんな違法拘束を10年近く受け、昨年8月に府の抜き打ち調査で問題が発覚、ようやく転院した。同病院は患者全員の転退院が終わり、1日、保険医療機関の指定取り消し処分を受けたが、奪われた歳月と人間の尊厳には何の償いもない。
 窓の鉄さくから腰に延びた二メートルほどの白い布ひも。その届く範囲が男性の動ける空間のすべてだった。リノリウムの床に畳一枚と布団が敷かれ、食事は便器のふたの上で食べた。ひもが外されるのは、たまの入浴と行政の立ち入り調査の時ぐらい。それでも温和な男性に、他の患者は「ポチ、元気か」と冗談半分で声をかけた。入院は二十数年前。精神分裂病との診断だった。法的には退院も外出も自由な任意入院なのに、「乾電池や鉛筆など目についた物を口に入れる」という理由でつながれていた。両腕が動かせない拘束衣を着せられた時期もあったという。拘束には、精神保健指定医の診察とカルテ記載が法律上欠かせないが、何の記録も残っていない。だから違法拘束の期間も正確にはつかめないが、関係者によると、10年前に異物を飲んで開腹手術を受けたあとは続いていたという。

信じられない話だが、これはまぎれもない実話である。
精神病院が単なる収容施設でしかなかった時代は、患者の人権もへったくれも無く、「キチガイを閉じ込めておく、キチガイの人生の終着点」として精神病院が機能していた。
現在、精神病院は2003年の時点で全国に1673カ所。ベッド数は35万8000床で、33万3000人が入院している。これは日本全国の精神病院を含むすべての病院の入院患者の実に4分の1近くに当たるらしい。
33万人の半数近くは「5年以上の長期入院」、10万人以上は症状以外の理由で退院できない「社会的入院者」といわれている。つまりは、受け入れてくれる身内もなく、仕事も無く、退院したくても退院できない人々がしょうがなく入院している、という。
厚生労働省は、受入れ条件が整えば退院可能な精神科病床入院患者が全国におよそ7万2千人いるとして、今後10年を目処にして入院患者の社会復帰を促進していくと言っているが、長期入院している人ほど、生活能力の低下、家族機能の低下(家族の受け入れ拒否)が進んでいて、社会復帰が厳しい状態なのだ。

日本の精神医療は、あまりにも大きな課題を抱えすぎている。
欧米と比べても、精神科のベット数がイギリス・ドイツの3倍、アメリカやオーストラリアの6倍。病院のベッド数は一向に減少方向に向かっていないし、医師、看護師数の対患者比も、一般病棟並とは到底言いがたい状態。
精神病患者に対する社会の偏見も根強い。
うつ病統合失調症がもはや現代病ともいえる今こそ、日本の精神医療は前進していかなければならない時ではないか?
だからこそ、表現の巧拙はあれ、この作品で精神科を取り上げたことは凄く意義があると思う。
結末をどうするか今から見ものである。